みんなの図書館 おとなの夜学

Original
Original

メニュー

Display

キーワードで探す

Display

リンク

Display

みんなの図書館 おとなの夜学

Original
Original

メニュー

Display

キーワードで探す

Display

リンク

Display

みんなの図書館『おとなの夜学』ブログ

ふたりの出会い

日比野(以下日): 今日はよろしくお願いします。あけましておめでとうございます。

神戸(以下神): あけましておめでとうございます。

日: 私と神戸君は高校の同窓生ということで、加納高校。加納高校は今年100周年、美術科70周年ということでこのギャラリーでも展示がありましたが、県美術館でも同窓会、展覧会がありましたね。

神戸さんの作品を初めて見て、素敵だなと思いましたが、最初にちゃんと会ったのはどこでしたっけ?

神: 一番最初に会ったのは、日比野さんの企画の「フラッグアート」の審査で多分岐阜県庁の方と。そのあと、福岡の太宰府に住んでいるのですが、福岡で日比野さんのイベントでワークショップをさせていただいて、その時に。

日: ということで今日は神戸さんの作品を見ながら、後半は私の作品を見ながら、まず神戸さん、私の作品はどんなのか振り返ったうえで、そのあとこの和紙にふたりで絵を描いていきたいと思います。

【神戸智行氏の作品】モチーフ『長良川』

日: まずプロジェクターで出ました神戸さんの独特の世界観がでている作品ですけれども。

神戸さん、岐阜の県美にもコレクションされていますが、この作品はいつごろ描いて、いまどこに?

神: これは2009年くらいの作品で、長良川がモチーフになっています。僕の作品は、身近な自然をモチーフに今の社会を描こうと思って描いています。この作品は自分にとって一番身近な自然ってなんだろうって考えたときに、生まれ育って子供の頃から遊んでいた長良川が一番思い出されました。本荘出身なんですが、「ただいまー!」って帰ったらランドセル投げて「いってきまーす!」ってタモ持って河原にいくそんな幼少期だったので、小さな魚だったり虫をつかまえて家に持って帰って、いつも母に「またそんなもの持って帰ってきて」って言われて、庭に放してどっか行ってしまったり。そういったモチーフが自分にとって身近なものなので、そこからイメージを膨らませたりできるので、自分の絵の主体となっています。

日: これは長良川の河原の石と透明度の高い水の中に沈んでいる石と。長良川の水、本当にきれいだよね?

神: 本当にきれいです。

日: 長良橋の上から川を見ると本当に石がいっぱい見えて、魚の動きも見えるんじゃないかっていうくらい。

神: 子供の頃から当たり前に見てきたんですけど、それが他の場所に行って他の川を見ても、濁っていたり生き物をなかなか見つけられなかったり。本当に岐阜って素晴らしいな、長良川の美しさは世界に誇れるものなんだなと思います。

【神戸智行氏の作品】モチーフ『いきもの』

日: 今日は神戸ファンが多いと思いますので、僕はサポート役で。神戸君の描き方って、まずスケッチ描くの?

神: はい。

日: 現場に行ってスケッチ描くの?

神: はい。その時間が長いです。トンボとか生きてる生き物はスケッチした後、死んでしまったら標本にしたり、魚やカエルなどはしばらく家で飼って餌やったりして、それをスケッチしています。

日: 写真は撮る?

神: 一応撮るんですけど、写真だとなかなか絵には描けなくて。やっぱりいろんなものが写っているんで自分の中でスケッチにおこしていかないと。

日: 魚もいてカエルもいて、これはさっきの絵の寄りなの?

神: これは他のシリーズの作品です。

【神戸智行氏の作品】自分らしさ『原点』

日: 神戸君が自然に暮らす生き物がどこかにポイントとしてポンとある。いわゆる神戸スタイルがあるわけだけど、いつ頃から?最初から?

神: 岐阜で高校まで育って大学に進学して美術大学でまた日本画を一から学んでいくんですけど、最初はその4年間の中で自分が何をテーマに持つものを決めて行かなくてはいけなくて。初めは身近な好きな作家さんだったり好きなものをモチーフに書いていくんですけど、でも自分らしくないなとすごく思って。まず足元から見ようと思って、自分の原点ってなんだろう原風景ってなんだろうって思った時に、長良川だったり自分が生まれ育った岐阜の景色が思い出されました。

日: じゃ次。

神: 「一番やすらげる場所」というタイトルです。トンボがとまっているんですけど、安らいでいるのかなと思って見た時に、イナゴがいたり葉っぱの下にトカゲがいたり。でも実際自分たちが安らいでいる場所って意外とそうやって選ばれているのかなと思って。 身近な自然の中にも自分たちの世界が出せないかなと思って描いた作品です。

【神戸智行氏の作品】『構図』

日: 絵の要素として植物と生き物がいてその空間、デザイン、配置。イナゴの位置とかトカゲの位置とかトンボの位置って、例えばパソコンだったら、簡単にいくらでもシュミレーションができるじゃない。日本画だったら下絵描いてそれを薄紙に描いて画面の中でレイアウトするの?それとも一発で決めるの?

神: 僕の中で絵を描く上で構図は大事な要素で、絵を決める8割くらい。構図はすごく大事です。僕の中では、10本当の世界があって、絵の中で8か9くらいが本当で、1がそれを構成するくらいで、実際ある景色やモチーフだったり、スケッチを忠実に見てその中で多少の方向性を変えていくくらいの気持ちでやっています。

日: じゃ8か9は実際をスケッチして、この構図いいなと思ったら自分の中でフレーミングして丹念にスケッチして、生き物がここにいたらいいだろうなとか、実際いた生き物がきっかけとなって増やしていったり。

神: 多少。

日: 多少。でも真ん中にピョーンと葉っぱが1枚上向いているじゃない。あれほんと?

(会場笑)

神: ほんとです。実際に。(笑)

日: あれが気に入って描き始めたの?

神: そうですね。それもありますが、全体で。

日: 写真とは違って自分が気になったものをよりそこにファーカス当てられるし、自分が気に入ってこなかったものは省くことができるっていうのが人間の目のすごいところだし、作家の見方になるわけだから、ここで神戸君に「あれほんと?」って言ったのは、本当は見えていなかったかもしれないけれど、神戸君には見えていたという意味ではほんとなんです。

(会場笑)

多少右に2センチくらいずれていたかもしれないし、もっと大きかったかもしれないし、枯れていたかもしれないけれども、神戸君には見えていた。きっとそこが作家の面白いところで。

僕なんかも若い頃にすごい絵を見るとこんないい風景があったら俺だっていい絵が描けるのになって思ってた。20歳前半とかあったんですよ。俺もフランスに生まれたかったよとか、なんでこんな日本の岐阜なんかに…パリだ!と思っていたときもありまして。でもそれはモチーフが素晴らしいんじゃなくてその人の見るものが全部違うからね。だから今、神戸君が言った足元を見れば素晴らしいものがいくらでもある。見えないときはどこに行っても見えないし、見えるときはどこに行っても見える。自分の世界というものがね。

日: これはふたつのフレーム?

神: これは別の作品です。

日: 大胆にこれは思いっきり蓮の葉っぱを。

神: カエルなんですけど…

日: 真上から見たんだね。

神: そうですね。自分の実家の目の前が田んぼなので、カエルが当たり前のように朝自転車の上に乗っていたりとかするんですけど。カエルって保護色になっていろんな表情を出していくんですけど少し前にいたところの体の色になっていて、一つの葉っぱの中に同じような大きさのカエルのでも居たところが違うと微妙に色が違って、それが一つの葉っぱの中でバランスを保っていて、それがすごく面白いなと思って。それって同じように自分たち人間もそんなふうに世の中にいたりとかするなって。

日: これって5匹いるんだよね。バランスだもんね。いくらカエルが軽いとはいえ一方向に偏ってしまったらポチャンてみんな沈んでいるよね。微妙に体の中でバランス感じているんだろうね。メダカかな?小さい魚が…

構図の絶対的な正解ってないと思うんだけど、神戸君のこの絵を見ると、メダカが1匹多かったりとかカエルの色がちょっと違ったりすると、全然バランスが違っちゃうんだろうなっていうこれ以上のバランスはないんだろうなって思わせる強さっていうか、いやらしくない説得力があるんだよね。

自分の中で僕も絵を描いていて、例えば「あー!違う」決まらないって、なんかずっと描いているけど全然決まらない。決まらないとどんどん疲れてくるから、今日1日どうしようかなって昨日の途中の方がよかったかなって思う時がある。自分の限界をふと感じかける時に、ここにこの色入れてみようかなとかここを省いてみようかなってしたときに、急に絵がババババババって、こうグワっと出来上がっているときあるよね?

神: はい。

日: それってやっぱり塗り絵のように順番にやっていけば最後に1色いれたら完成って読みきれないこと最後の方になってくると出てくるじゃない。日本画なら下絵を塗って下書きを写して色入れてだいたい8割9割までいったとしても最後の1割がどうやってやったら…。だんだん自分の求めているものも高くなってくるし…。

世の中の期待って結構面倒臭いものがあって、「神戸先生、こういうのを描いてください」「こういうの描いてください」って期待に応える自分が「だめだ!もっと新しいことに挑戦しなきゃ」っていう期待に対して裏切りたいっていう自分と裏切っちゃうと申し訳ないかなって、安全に描いておいたほうがいいのかなって、ゆらぎが出たり入ったり出たり入ったりする中で絵を描いていて、どうやったら次の世界に行けるんだろうって思った時に、ふとこの今の絵でもたくさん色があるんだけれど作家にしてみれば黄緑色が気にくわないと思ってちょっとトーンを明るくしてみたりちょっと汚したりした瞬間に「あ!OK!」ってそのせめぎ合いっていうのが描いてある。勝手に言っちゃうんだけど。全然違うかもしれないけど。

神: いや、わかります。僕もわからなくなるときあります。どんなに大きい大作でも決まるときはすぐ決まるし、決まらなくなって分からなくなったときも一度見ないって遠ざけて、また新しく。それでもわからないと現場に行こうって。もう一度、「描こう」と思った気持ちのある場所にその景色を見に行ったり…そうすることで見つかったり…そんな感じで描いています。

日: もう一回現場に行こうって思って行けるのが神戸君ならではなんだね。日常の中にある世界で作っていく…

【神戸智行氏の作品】作品に込めたメッセージ

日: 亀がいますけども、実際どこで見たアングルなんですか?

神: これは「陽のあたる場所」というタイトルの大きい作品で、これも部分なのですが、大学で東京に出てしばらく東京で制作活動してそのあと留学から戻ってきた時に。近くの池で、アカミミガメという外来種なんですけどその亀を描いています。今の日本の自然は外来種もいて、いろんな種のものを混ぜ込んで今の日本の風景なので、日本固有のものだけでなく、今生きてる社会や生きてる自然をモチーフに選んでいます。

日: 外来種って生態系を崩すんじゃないかって悪者扱いされちゃっている。動物保護、動物愛護的な考え方もなくはないけれど、でも一方日本でもいろんな民族を受け入れるっていう移民の問題とか外国人居住者の問題とか、労働の問題とか含めていくと、いわゆる外来種の亀を日本画のなかに入れる、描くっていうのがひとつの大きなメッセージになっていくんだろうね、きっとね。

神: そういうところはとても大事で。彼ら自身は一生懸命生きている。

日: そうだよね。

神: 自然なので恵もあれば畏怖もあるけれど、ひたむきに生きるっていう姿は僕たちも大事な見習うべきところなのかなって…

日: えらいねぇ。(会場笑)

神: こわい、こわい。(笑)

日: いやほんとえらいよ。

これはまたきれいな絵だねぇ。なんか金魚の水族館に入ったみたい。

これは、ワークショップをやったの?

神: はい。金魚って中国から入ってきて品種改良していろんな形、種類がいるんです。それを子ども達と一緒に日本画の画材をつかって、モビールを作りました。日本画の画材で絵の具を塗って箔を貼ったりとか。それも一緒に大きな水族館を作ろうっていう作品です。

日: これはどこでやったの?

神: これは茨城の美術館ですね。岐阜でもさせていただいたんですけども。

日: こういうワークショップはときどきやっている?

神: そうですね。ワークショップは年に何回かはさせてもらっています。

日: 作家って基本的にはひとりで、アトリエで描いているんだけれど、人に教えるとか神戸さんの中ではやられている?

神: 日本画を勉強してきたので、子供達に伝えていきたい。

日: これは?

神: これはシンガポールですね。向こうの大学の先生の最先端の技術と日本の伝統画材を使ったコラボのプロジェクトで、全部プラチナが貼ってあって向こうの学生が日本の画材を使いながら、プレートを作ろうと企画した時の写真です。

日: これ真ん中の柱は?

神: これは柱状の作品で全部金箔を貼ったものです。

日: おおー!

神: 水族館みたいな感じで、「ミライノニナイテ」というタイトルで、いろんな土地にいても白人だったり黒人だったりいろんな国の人がいても同じ世界のなかで生きて行けるというメッセージの作品です。

日: 立体の作品も?

神: そうですね。作ったりしています。

太宰府天満宮宝物殿でのアートプログラムで、日比野さんも第1回…

日: 太宰府天満宮ってね、何百万人が訪れるという日本で三本指くらいに入る天満宮ですけども、ここの宮司さん、現代美術が大好きで天満宮の中にある宝物殿の中で現代美術の作家の展示を5年くらい前からやっている、1回目から僕は行っていて、これは?

神: 7回目ですね。

日: 神戸君がいま太宰府に住んでいるのも天満宮の襖を何年かかって描くということで。 

神: 襖絵をかかせていただくのですが、天満宮の境内にある自然をモチーフにしているんですけど、根本にあるのは、岐阜の本州の人間なので、今まで生き物を描いてきて、当たり前に見てきたものが九州だと生き物が違ったり、例えばセミひとつとってもこちらはアブラゼミなんですが、向こうはクマゼミがたくさんいたり。岐阜だとレアなのにとか。(笑)根本になっているのが岐阜の自然で培われたものなので、それと比較でものごとを見たりしています。

日: 以上神戸さんの作品でした。本当によく知っているという方もいるし、神戸さんの作品を初めて見てファンになったという人もいるだろうし。いいですね!

(会場拍手)

岐阜県美術館にコレクションされていて、常設展にも展示されているし今どこに行くと見られるの?生で。近々。

神: 近々は、新潟の伊勢丹で展覧会をしていて、岐阜だとギャラリーなどですね。

【日比野克彦氏の作品】原風景『忠節橋』

日: 私の作品もちょっと改めて。今日は岐阜にまつわる作品を何点か。せっかく岐阜の正月なので。

神戸さんも長良川の話いっぱいしましたけど、僕も川が自分の思い出としてあって。ここで出てきたのは橋なんだよね、橋。左にペインティングされているのが忠節橋なんだけど、手前はワークショップでみんなで作った橋をつなぎ合わせて作ったインスタレーション、これは水戸の芸術館でやった展示。

日: これも同じく水戸芸でやった作品で「県美術館2005」というちょっと場違いですね。(笑)これ岐阜。垣根に忠節橋の上からを摸したもの。上の方に電車が走っているのは垣根の上を電車が走っているっていう。岐阜もチンチン電車が走っていたからね。

日: これも忠節橋。エスキース。

僕がなんで忠節橋って言うかというと萱場っていう地名があるんですけど、忠節橋渡ったところ。幼稚園の頃いたんです。生まれたのが矢島町って伊奈波神社のところなんですけど。そこに明照幼稚園ってあって、明照幼稚園に通っていたんですね。幼稚園の年長さんの時に萱場に引っ越したんですよ。そうするとそれまでは歩いて通っていたんですけど、バスに乗らなきゃいけなくなって、バスに乗って萱場から通っていたりして。萱場にある橋で、橋の欄干で、下にちっちゃな川が流れているんですけども。その橋、ときどき懐かしくて見に行くとまだあるんですよ。僕が今年58になるから50年も前だけど橋まだあるの。ボロボロのまま。そろそろ直したほうがいいと思うんだけど。(会場笑)欄干が低くて70センチくらいでコンクリートの橋なんだけども。昔は他に何にもなくて市営バスのドームや団地があったりして、今は変わっちゃって家がいっぱい建って環状線が走っているんだけども。自分にとって橋っていうのはここから向こうに行く、とても大きなゲートみたいな感じがあって。

忠節橋ってかっこいいじゃないですか。ちょっとかっこいんですよ。金華橋、長良橋と違って。(会場笑)あの両岸が当時でいう鉄人28号のこのへんと似てるの。(会場笑)ガキンガキンガキンみたいな。あと登れそう。登って行って滑れそうでしょ。(会場笑)実際は怖くて行けないんだけど、なんか登れそうだなとか、上から滑ったらグワって気持ち良さそうだなって。いつも忠節橋を見るたびに思っていて。そして自分の家から幼稚園に行く、ちょっと大きな向こう側に行くっていうイメージが忠節橋にはあって。自分の中のまさに原風景。

【日比野克彦氏の作品】長良川と橋

日: これワークショップで。この後2006年岐阜の県美で展覧会をするんですけど、エントランスを川に見立てて、上に橋を。向こうが忠節橋ね、手前が金華橋で、もう一個こっち側には長良橋があるんだけども。これはみんな下にブルーの小さい紙を貼っているんです。10年近く前になるんだけど、「あー、行ったことある」ってひともいるかもしれない。これ不思議なもので別に何も言ってない。何も言ってないって変かもしれないけども。橋らしいものが3本ある。っていうことはこの橋の下に川があるんだな。岐阜の人が見ればあれが忠節橋、これが金華橋か、ってことはこれが長良橋だな、ということはこっちが上流だなってことがわかる。(会場笑)僕が最初にブルーのチップを貼ってなんとなく水が溢れて出てくるようなきっかけだけを作って、ブルーチップを置いておくと、「そういうことね。川を作るのね。川を作ればいいのね」ってみんなが川を作っていく。(会場笑)どんどんどんどん。1日ではできないから途中まで作った人の続きを自分がこっちの流れを作っていくわって。どんどんどんどん。みんなで3ヶ月間ぐらい川を作っていったっていう作品。

日: これは設営中。

日: これはもう増水状態。(会場笑)氾濫しそう。あのブルーチップが入っているケース、段ボールの船みたいな形で作ったりして。そうするとみんながどんどんどん川を作る。忠節、金華、長良橋一番奥にたてにたっているところそこが水が溢れてくる源流。長良川の記憶って、郡上でも美濃でも例えば木曽川でもこの地域って川の流れが自分の記憶の中にある。記憶がある人は水の流れを自然に作っていった。これは指示があったわけじゃないし、下絵があったわけじゃないけれども、それぞれの人の川の記憶を3ヶ月間で、みんなで作っていった。「DNAリバー」というタイトルです。

日: これは21世紀美術館ですけども。そのあとに岐阜県美で展示した後に、床のやつを壁一面に貼ってみようということで、21世紀美術館のある部屋で床から壁から全部繋げて、忠節橋だけ持っていった。

日: 始めて10年になりますが12月22日の冬至の日に「こよみのよぶね」というのをやっています。これも岐阜県美でやった展示「DNAリバー」をきっかけに始めたもので。

市民と一緒になって竹と和紙で作ってそれを屋形船につけて冬至の日に灯りをつけて、1年のことを思い出して、時の流れと川の流れとときのメモリである数字をモチーフにした行事で、初年度はララマンカホールとか未来会館とか本当にいろんなところでこよみのよぶねを展開していきました。屋形船というのは夏は鵜飼観覧船で使うんですが、冬は使っていないので、船頭組合とか岐阜市の観光の人たちに協力していただいて、毎年22日に屋形船お借りして。

毎年干支も作ったりして。

ぜひまだ見たことない人は、毎年冬至の日にやっていますので。各12カ所の地域でこれを作るワークショップを11月頃からやったり、柳ヶ瀬など、昨年はここメディアコスモスでも作りました。岐阜市以外でも郡上とか中津川とか地域でも作っています。国体にも参加しました。

神戸君もぜひ冬至の日に見に来てください。

【日比野克彦氏の作品】自然が教えてくれること

日: つい最近の作品は岐阜県美の庭で作品を作りました。「花は色の棲家」というタイトルで県美の庭で100日間、木で組んだやぐらにプランターを吊って、100日間色が移り変わっていくという。色の素晴らしさとか変化する移ろいでいく美しさとか命の儚さとか大切さとか、植物とか自然が教えてくれているんだなということを実感、体感してもらえればなという作品で。9月の頭から始まって12月10日までやったんですけど、最後収穫祭って言って花の種を収穫するということで締めくくりました。花の種ってすごく小さくって枯れてしまうとみんなほとんど気付いていない…種をしっかりとってまた来年それぞれまたお家に持って帰ってもらって、県美のこの日のことを思い出してもらったりとか、しっかり収穫して次につなげるということで、この企画はまた是非来年も県美の庭でできたらいいなと思っています。

これはもう撤去してしまっていますが去年見逃した方は今年是非来ていただければと思います。

ということで以上私の紹介でした。

神: 素晴らしいです。

(会場拍手)

【書初めライブドイローイング】本美濃和紙に『即興』

日: 神戸さんと私の二人の岐阜にまつわる話と自分の作品に対するメッセージと制作する上でのきっかけとか話をさせていただきましたが、いよいよここからはこの紙の上で神戸さんと私のコラボレーションをこれから展開する…

神: きれいですね!

日: きれいですね!

(会場笑)

日: じゃ描きますか。

画材が墨汁とか墨とかね。ここにすごいでかい筆が。

神: レレレのおじさんみたいな。鑑定書が…

日: 鑑定書!和紙の?これは僕が神戸君にあげるやつ?

蒲: それは世界無形文化遺産の証拠です。

日: この和紙がね。

神: 踏んじゃっていますけど。

(会場笑)

日: 踏まないと描けない。(笑)

日: 俺今日派手な靴下はいてきちゃったなって。

(会場笑)

日: 神戸君何持ってきたの?

神: 一応、日本画で使っているので、箔。

日: 箔?金箔?

神: はい。持ってきました。

日: 箔って普通どうやって使うの?

神: 僕がやっている日本画では和紙をベースに描くんですけども、岩絵の具、墨だったりそういった絵の具、あと箔は「にかわ」を塗って箔を落としていくんですけど、普段は「どうさ」といって防水加工した紙の上に描きます。今日は生の紙に描くということは水が染み込む。にじむ紙なので普段僕が使っているやり方とは違うので、書き初めぽい感じなのかなと思って。墨を落としたところにも砂目の箔を落とすとペタッとくっつくのでそういうものも使えると思って持ってきました。

日: じゃ墨の上に落としていく?

神: はい。落としていく。

日: じゃ墨が乾くと同時に箔がぺたっとくっつく。

神: はい。

日: 筆は何持ってきたの?

神: 普段使っているこんな筆とか、このサイズでは小さいので、何ヶ月もかかかっちゃう。(会場笑)

日: じゃあ、互いに岐阜の川や橋というものが今日出てきたので、なんとなく川とか橋とか河原とかせせらぎとか清流とそんなイメージで、いきますか!

神: はい!ほんとに今、日比野さんがおっしゃられたことがこれが今、打ち合わせなので(会場大笑)…がんばります。

 

【書初めライブドイローイング】『まる』の駆け引き

日: 神戸君、じゃあさ、まる描くか、まる。

神: まる…まる。

(会場笑)

日: まるを1個づつ描こうか。一個描いたら交代。これが一個の空間として、そうきたらこうくるか…

神: わかりました!

日: じゃ俺からでいい?

神: はい。

―日比野さんが描く

―神戸さんが描く

(会場笑)

日: ふーん。(会場笑)神戸らしいちゃ神戸らしいよな。

日: あ!垂れた!(会場笑)

―日比野さんが描く

日: わ!垂れた。(会場笑)

―神戸さんが描く

日: そうくると思った。(会場笑)

こうきて、こうきて、こうくるとそこだよね。じゃあみなさん、私だったらここだなってところをみてください。

みんなはあそこに行くだろうと思うだろうから俺はそこにはいかない。(会場笑)

―日比野さんが描く

日: じゃ、のせていくか。(会場笑)

なんか引力と重力みたいな…こないだはやぶさ2号が軌道修正したじゃない。地球の、なんか引力で。微妙な少しのエネルギーで…

―日比野さんが描く

日: 星すき?

神: …き、きらいではないです。詳しくはないですけど。

―神戸さんが描く

―日比野さんが描く

日: ごめんね、よく垂らして。(会場笑)あの垂れた二つも随分メッセージを放ってるね。

―神戸さんが描く

―日比野さんが描く

日: ちょっとしばらくは取り合いになるけど。(会場笑)

―神戸さんが描こうとして筆を落とす

神: あ!!(会場笑)

日: あ!!わはははは(大笑)

神: いい感じ。

【書初めライブドイローイング】作品と葛藤

日: うん、いい感じになってきたねぇ!こういう神戸をみられるとは思わなかったな。実際描いていてこういうときある?「うわっ!!」

神: ありますね。(笑)「うわ!」って夜中とか騒いでいます。ひとりで。「あああ!!」って大声で。(会場笑)

日: 修復、できな、い…

神: そうです…でもそれも好機と捉えて。そう考えないと…

日: ほんとほんと。

神: 神様がしてくれたと思っています。

日: そうですよね。どう転がっても、これが災い転じて福と為す。

この辺になってくると、もうこれで完成でいいんじゃないかなって思うときあるよね。(会場笑)1回思って、全体の方向性がでてきたな、ましてさっきみたいな「あっ!!」ていうのがあると、こういうことか、今俺がやりたかったことかって、ここで1回冷静な時間が欲しくなるね。

で、ちょっと自分の中でラクしたい自分がいると、ひょっとしてこれで完成でいいのかな、これで完成だったら、相当ラッキーみたいな。けどそんなわけないんだよね。(会場笑)そんなわけねーだろって。ちゃんとやろー。(会場笑)こういう心のささやき…

筆を変えてみるか。

―日比野さんが描く

日: 変わったね、また。

―神戸さんが描く

日: なんかさまよいながら道探しているかんじだよね。ひょっとしたらここは崖?こっちは頂に近いのかな?って。

神: ほんのちょっと光がぱっと落ちると…

日: ぱっと落ちると、こっちか…!

―日比野さんが筆を持って歩くとぽたっと落ちる(会場笑)

日: 気にせず。気にせず。

―日比野さんが描く

―神戸さんが霧吹きをする

日: おお、やるねぇ。

―日比野さんが描く

日: さっき自分がやったとこ気に食わなかった。

―神戸さんが描く

日: きれいだねぇ。それ自分のはけ?

神: そうです。かすれ…

日: いいな。(会場笑)なんの毛なの?

神: 馬の毛です。硬いんです。かすれる。

日: 使っていい?

神: はい。

日: 筆はどこで買っているの?

神: 京都とか、岐阜でも買わせてもらったり、筆によってはそこでしか売っていない職人さんが作っている筆を現地に行って買わせてもらっています。

日: これは?

神: それは全国で売っている…

日: これいい感じで埋まってきてる。選択肢が出てくると迷う。

―日比野さんが描く

【書初めライブドイローイング】すきな時間

日: 神戸、今3時10分。何時くらいが一番好き?

(会場笑)

神: 好きな時間ですか?

日: あるでしょ、絵を描くのにいい時間。みんなそれぞれ違うと思うんだけど。

神: 夜中ですかね。

日: 夜中。

神: 朝方まで描いていたりします。締め切りになってしまうので。やっぱり夜中静かな時に描いているのが好きですね。本当は絵のこと思うと自然光のひかりの方が絶対いいんですけど。静かな中で描きたいなって…

日: 俺なんか午前中なんですよ。

神: そうなんですか?

日: 夜はねなんか落ち着かない。午前中か、夕方なってくるともう終わりかなって3時4時くらいかな。

神: 横山大観は飲まないと書けないって。(会場笑)

―神戸さんが霧吹きをする

日: お!出たよ!銀が出てきました。

―神戸さんが霧吹きしたところに銀箔をふりかける

(会場おお)

日: そんなにいっぱい…(会場笑)大盤振る舞いだな。

それはなに?

神: 金箔です。

日: こっちのパウダー状のは…

神: 銀箔を「すなご」と言って…

日: すなご。

神: 本当は竹の筒でそういう道具があるんですけど、網を張った上で箔をガリガリっと細かく砕いて…

日: 自分でつくる?

神: はい。作ります。

―神戸さんが金箔一枚をはらはらと落として見せる

(会場おお!)

―神戸さんが金箔を日比野さんに渡す

日: おお!金だ。(会場笑)

神: 一応純金です。

―日比野さんの手に付いた金箔が離れない。息で吹いて飛ばす。

(会場おお!)

日: 正月!!(拍手)

神: (拍手)付いた箔をこすりつけると美容にいいんで。

日: 美容にいい。(会場笑)

これどうしよう?上から墨つけるの?

神: はい。いいです。


【書初めライブドイローイング】最後の一手

日: 神戸、加納高校の時から日本画専攻してたの?

神: はい。

日: いつから日本画やろうと思ったの?

神: もともと絵が描くのが好きで…

日: でも加納高校は油画、彫刻、デザインもあるじゃない。

神: 高1の時に最初全科を経験させてもらったんですが、その時日本画の画材を触った時に、「あ!これで描きたい!」って。

日: 高1のときに日本画に出会った。日本画の材料のなかでなにが神戸の中では一番いいなと思ったの?

神: 水を使って描くことと、ほとんど自然なものから出来ているのでピタッときたというか。

日: 自然のオーガーニックな感じが、昆虫少年にとってはビビッときたんだね。

で、今度は俺だっけ?

これを写真撮っとこ。みんな撮ってもいいよ。

じゃ、そろそろ仕上げに入りますか。最後の一手ね。最後神戸が仕上げるんだよ。

神: え!(笑)

日: 神戸さんに最後お願いして。

―日比野さんが描く

日: では最後神戸さんに。

―神戸さんが描く

(会場大拍手)



【書初めライブドローイング】ふたりのサイン

日: 最後ここ残したんだね。最後余白を生かすためにも…

蒲: 落款入れますか?

日: 落款なんて持ってないよ。

: サインでも…

日: サイン入れた時点で上下左右ができてしまうんだよな。これどっち向きで自分で見てたとかある?

神: でもぐるっと…

日: ぐるっとだよな。

じゃあ小さくサイン入れていくか。四方に入れよう。(会場笑)

―四隅に日比野さん、神戸さんのサインを入れる

(会場大拍手)

日: じゃ、神戸さんありがとうございました。

神: ありがとうございました。

日: コラボレーション…タイトルなんか後で考えよう。完成。神戸と…まる、まる、まる、まる。

(会場笑)

神: すごい疲れますね、まる打つの。

(会場笑)

神: すごい考えるので。こっちの手いったらこう…この大きさでこの濃さで次こっちくるかなとか…今すごく疲れています。

日: 作家って当然一人しかいないんだけど、僕ときどきやるんだけれども、もし例えばピカソだったら、こここうやっちゃうだろうなとか、もし平八郎だったらこうするだろうなとか、神戸だったらこうするんだろうなぁって自分じゃない人の気持ちになって物事を見るって結構大事っていうか、ガーッとなっちゃう時に…一番自分らしい人とか解決策を見つけていってチャレンジして、自分を違う人の価値観に置き換えて物事を見るというのは絵の世界もそうだけれども、きっと社会でも相手の立場になって考える、神戸君の絵の中でも外来種のカメに置き換えるとか社会の中でも相手の立場に置き換えるのは大事…これもそんなようなタイトルにしよう。

日: ということで、今日はどうもありがとうございました!

神: ありがとうございました!

(会場大拍手)